湾岸ミッドナイト / 紹介・レビュー
作品情報
ジャンル:カーバトル |
作者:楠みちはる |
連載雑誌:ビッグコミックスピリッツ⇒週刊ヤングマガジン |
連載期間:1990年~2008年 |
単行本:全42巻 |
特徴
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あらすじ(Story)
車を愛する高校生・朝倉アキオは解体所で「フェアレディS30Z」のスクラップを見つけた。その車は歴代オーナーが全員事故死し、“悪魔のZ”と畏れられる最速チューンドカー。一瞬にしてこのZの虜となったアキオは車を再生させ、生活の全てを捧げる。前オーナーの妹えりこは兄を殺したZを憎んできたが、アキオの熱い気持ちを知って心惹かれ始める。そしてえりこの恋人・島は、これ以上犠牲者を出さないために愛車のポルシェ911“ブラックバード”をチューンナップし、再びZとの高速レースに挑んでゆく。長所(Good point)
★車のウンチク
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★名言ポエムの数々
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感想(Review)
本作は1990年からヤンマガ等で連載されたカーバトル物で、雑誌的にも大人向けな作品となっています(別にアダルトなシーンはありません)。 18年間に渡って連載されておりましたが、本作の時代背景は漫画の連載とリアルタイムに進んでいる為、数々の新しい車が顔を出す。序盤はスカイラインR32が最新で、話が進むにつれてR33、R34が出る等。終盤ともなるとガラケーで連絡する等のシーンも出てくる。しかしキャラクターの年齢は進む事がなく、主人公に至っては永遠の高校三年生ということになっている。名探偵コナンとかと同じですね(´▽`;)本作のジャンルは「カーバトル」という事になっておりますが、その毛色はやや異なっており、例えばカーバトルの漫画代表として名高い「頭文字D」で例えると「峠で2車同時にスタートし、先にゴールしたら勝ち」と当然ハッキリしているが、本作では首都高での競り合いを描いており、そもそもスタートとゴールを定めたバトルになっていない。「勝ったか負けたかは、本人達が一番よく分かっている」という事になっている。そんなんで白黒つくのか?と思われるかもしれませんが、本作は「悪魔のZに乗るアキオ(主人公)に、誰か全てを費やしたマイカーで挑み、全てを出しつくしたバトルを経て負けて、自分への一つのケジメを付ける」といったパターンが大半になります。その為、カーバトルというよりは人間ドラマという方が適切だと思いますね。そういう意味でも多分大人向けな作品です。
悪魔のZに勝つ為にチューンをし、ドラテクを身に着ける。その過程で得るモノがあったりといったドラマがあるのが面白い。さらに車に詳しい人ならば、どのようにチューンして勝とうとするのかという楽しみがプラスされる作品です。「何かに真剣になっている男たちのドラマが見たい」とか「車が好き」という人に向く作品だと思います(´▽`)
おまけ:名セリフ集
2巻 P.96「き…ッ きたあ!あのZの音だ―――!よ―――しッ!よしッよしッ!いい音だ―――――ッ!」
「悪魔のZ―――――ォ!」
姿を現した「悪魔のZ」に、地獄のチューナー北見さんがハンパなく興奮する。別に名場面じゃないですが、北見さんがここまで興奮する事って今後無いんですよね。それだけZに対する想いがあるのか、それとも漫画が進むうちにキャラが変わったのか。だとしたら身もふたもないですが(´▽`;)
3巻 P.167
「くくく…だからどうしたってゆーんだ それが…?無理だろう、いくら理屈並べても…お前はもう見てしまったんだ、悪魔のZを。お前はまた走り出すしかないんだヨ」
かつて車にのめり込み、その結果妻を流産させてしまった過去を持つ男 平本。その後は走り屋としての活動は辞め、妻を労わりながら仕事をしていたが、悪魔のZに出会い、走り屋としての自分が再燃する。しかしもうあの時の自分に戻るワケにはいかない。そう思っていた所に北見さんが走りの世界へと引きずり込む。まさに悪魔のささやき。一見他人事のように軽く言ってるように見えるけど、ここで自分に白黒付けておかないと、これからの人生は後悔に彩られるぞ。と言っているんでしょうね。
4巻 P.60
レベルの違うブラックバードを無理に追ってエンジンブローした原田の車を見て北見さんが言う言葉。
「ヤッてしまったな…止まらなくていいゾ、いってしまえ。エンジンブローは無知ゆえの結果、助ける必要などない」
正直、原田くんの事は「ダサッ」と思いました。感情や意地で勝手に自爆とか…。実際この後、平本さんが同じようなシチュエーションになりますが、ブローするまで無理に追ったりはしませんでした。でも原田くんはこの後心の成長を見せます。そういう所も本作のイイ所なんでしょうね。
4巻 P.101
「ウーロンだオレ!」
この頁だけだとサッパリですね(´▽`;)
忘れかけていた板金への情熱を思い出させてくれたアキオに対する想いが感じられるシーンです。この後も多くの人がアキオを助け、教えていく事になります。この時点ですでにカリスマ性を滲み出しているな…。ぶっちゃければ主人公補正とも言いますが。
6巻 P.146
「ま、でもアオキくんも19だし!」
全然名場面じゃないですが…むしろネタ。6コマ目で主人公の名前に誤植があり「アオキくん」になっている。1字ズレるだけで苗字みたいになるという不思議(´▽`;)
10巻 P.231
「壊れるエンジンには壊れるワケがあり、事故った奴には事故るワケがある。たまたまとか偶然運が悪くてとか…そういうのはないんだ。なるべくしてそうなる理由が、いつも必ずある」
全ての事柄には理由があり、運で片づけるべきじゃない。「ツイてなかった」で終わらせるよりは、原因究明に乗り出した方が前向きですよね。個人的にはかなり共感出来る人生観です。仕事をする上で心に留めた方が良い一言ですね(´▽`)
23巻 P.33
城島さんが駆るポルシェ964に同乗した北見さんが「見事だな」と評価する。それに対して車の論評を始めた城島さんに向かって北見さんは「いや、オレが見事と言ったのはお前だヨ。こんなゴミをよく首都高であそこまで走らせるもんだ」
車のダメージと城島のドラテクを見抜いたセリフであるワケですが、名言というかインパクトはありますよね。ゴミってアンタ( ̄▽ ̄;)
27巻 P.92
「こうなるであろうと仮説を立てて、結果 失敗するのと とりあえずやってみて失敗したのは全然違う。わかろうとする努力もせず、とりあえず やる。それはトライ&エラーじゃない、ただの無駄だ」
個人的に一番好きなセリフです。生き方のスタンスが合っているだけかもしれませんが。どんな事もノープランでやっても良い効率は出せないし、例え運よく成功しても、それでは得るモノは少ないと思っているので。
28巻 P.15
仕事の時間に追われる後藤を見て富永さんは「今すぐとか、今日明日とかでなく、長いスパン(幅)で仕事を見ようって。それはそれで間違いじゃなかったけど、でもそれは自分も若くて未来も永遠と思っていただからでもあるのヨ。歳をとると少しまた違う考えも出るわけ。限られたターム(期間)の中でやるコトも、また本物だろうって。時間に追われる仕事、いいじゃないか。限られた条件の中で評価されてこそ金を取る仕事だろ」
仕事に追われて毎日アップアップ。そんな中のプラス思考な考えですよね。「こんな短時間の中で、出来る限りのベストを尽くしてやったぜ!」という充実感が得られる考えですね。
36巻 P.113
「ある意味生きていく事は外からかかり続ける『圧』との戦いだ…と。そしてそれに呼応するように突然自分の中からも圧が上がってくる。意味の無い苛立ちや、止まらない怒り、分からない喪失感…。ストレスというそんな言葉では済まされない、何か人としての本能にあるモノ、それが出る。沸き上る内圧、それをどう持っていくか…だ。飲み込むように、その負の圧を自分の正圧にかえてゆく。ストレス解消という他への逃げでなく、沸き上るモノを飲みこまなければ…一生自分の圧など作れない。走る事でストレスが生まれるのなら、それはお前の圧がその行為に負けているだけ。それが出来なければソコから降りるしかない…」
前述の【28巻 P.15】の言葉に似てる所がありますね。例えば仕事をしていて、ストレスに感じる部分がある。それをプラスに考えられるかどうか?ストレス解消という逃げではいつまでも続かない。それが出来なければ、その仕事は自分に合ってないのだろう。「負の圧」を「正の圧」に。出来たら良いですねぇ(´▽`)
39巻 P.83
「ゼミの先生がよくメスの入れ方について熱弁したんですよ。出来るだけ跡の残らないようにメスを入れるのが本当の技術だと。時代はすでにレーザーメスで、何を今更と思いましたね。傷跡の評価は治療とは関係ない、大事な事を間違えてる…と。気づきました…わからないと人はバカにしてしまうんですね。僕の911は見る程に細部まで手抜きがないんですよ。人の手による妥協ない仕上がり、『確か』さがラフな扱いをさせない…。その事でどれほど僕の走りが救われたか。軽ければ良い、パワーがあれば良いじゃないんですね。雑なクルマは雑な走り方に必ずなってゆく」
色んな意味合いが込められている気がしますね。かつては職人芸でないと出来ない事が、今では最新技術で容易に可能で、その仕事の結果は同じかもしれないが、その仕事にかける心意気や覚悟、丁寧さまでは乗ってこない。効率化自体は良い事ですが、それに溺れて不祥事を起こす企業が多く現れている現状を思わせる言葉ですね。
41巻 P.16~17
車をいじるのに夢中になっていた北見さん。「あまりの空腹にまる一日 何も食っていない事にやっと気づく。寝る時間も食う時間も惜しい。それぐらいとりつかれていた。限界になると近所の食堂でメシをかき込み、仕事へ戻る毎日。ある時…店を出ると雨になってた。小走りで仕事場で戻る交差点…オレは白いセダンの前で立ち止まった。楽しそうなカップルが乗っていた。恋人同士か、それとももう夫婦か。歳もオレと同じぐらいの二人だった。あの頃のオレはチューナーとして行き詰っていた。オレの組むEgは客を選び、結果として客は離れていった。本当に幸せそうな男女だった。対し、雨に打たれる作業着のオレはみじめな姿だろう。…だが、オレの方が絶対に幸せだと思った」
独身野郎としては最高に羨ましいシーンである。勿論北見さんの方が。
世間一般から見れば、可哀そうとも取れる状況である北見さんだが、本人は誰よりも充実しているのだ。管理人もそうありたいモノです(´▽`)
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